第六章

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其の弐 阿漕は物置の戸を閉めると、北の方に見つかる前に、静かに自分の部屋に戻りました。 するとそこに、惟成からのお文が届いております。 『お前に一目だけでも会いたいと思って昨夜やって来たけれど、やはり門を開けてもらえなかったよ。 情けが無いなんて、思わないで欲しい。あんなことがあって、若様のご様子を見るのも辛くて、俺も本当に参っているんだ。 今夜はどうにかして忍んで行くから、待ってておくれ。 それから、若様の文を姫様に何とかお渡ししして欲しい。大変だと思うけど、頑張れよ?』 惟成の顔を見たのも、もうずいぶん前の事の様だと、阿漕は嘆息致します。 けれど、今ならまだ物置に錠が差されていないかも、と。急いで落窪姫の元へ向かいました。 (しまった、遅かったわ……) 阿漕が物置に着いた時、丁度北の方が扉に錠を差していたのです。 (またあとで様子を見に来よう) がっかりして自分のお部屋に戻ろうとする阿漕の前に、上機嫌の典薬助が現れました。 「阿漕ちゃん、おはよーさん。お姫さんに後朝の文を書いたんじゃが、届けてくれるかのう」 そう言った典薬助の手には、ごわごわした何の風情も無い紙が握られています。
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