第六章

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そのように書かれた右近の少将からの手紙を、落窪姫は胸に抱きしめました。 (ああっ、少将様。私もお会いしとうございます) 典薬助に返事を書くために、筆や硯も準備されていたので、落窪姫は、右近の少将へのお返事を、すぐに書くことが出来ました。 『流れた涙の川に浮かぶような身の上の私ですけれど、貴方様への愛は、誰にも消すことは出来ません。 貴方にお会いすることだけを頼りに、耐えて見せますわ』 一文字一文字心を込めて認めると、落窪姫はそれを阿漕に託します。 けれど、どうしても典薬助からの文は見る気になれなくて、姫は阿漕にそっと耳打ち致しました。 「ごめんなさい、阿漕。そちらのお文のお返事は、お前が書いてくれるかしら」 阿漕は任せて下さいと強く頷いて、北の方に怪しまれる前に、自分のお部屋にさっと戻って、典薬助からのお文を開きます。 『昨日は突然の病のせいで、悔しい思いを致しましたぞ。今日はどうかこの翁に、麗しい夢を見せて下され。 わしの大切なお姫さん。アナタといると、わしは自分まで若返る心地がするのです。 どうかわしを、愛しんでくだされ』 そのように書かれた後に、後朝のお歌が一首書かれております。
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