第六章

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『老い木ぞと人は見るともいかでなほ 花咲き出でて君にみなれむ』 ※人に老木と見られても、花を咲かせ実がなるような、あなたと似合いの睦まじい仲になりたいものです。 阿漕は不愉快に思いながらも、筆を取りました。けれどその気持ちをそのまま、返歌に認めてしまったのです。 『姫様はまだお加減が悪いので、阿漕が代筆致します。 枯れ果てて今は限りの老い木には いつかうれしき花は咲くべき ※枯れ果てて朽ちるばかりの老木に、どうして嬉しい花が咲くことがありますでしょう』 思いのままに書いてしまったので、阿漕は少し後悔いたしますが。 (ま、いっか。歌の意味なんていくらでも解釈できるもの。あの能天気な爺さんは、きっと自分の言い様に受け取るでしょうよ) 典薬助への返歌に頭を悩ませるのもばかばかしいと、阿漕はそのまま文を返しました。 案の定、歌の意味など深く考えずに、すぐに返事がもらえたことを、典薬助が喜んでいたので、阿漕は安心して惟成への返事を書いたのです。 そこへ以前、落窪姫の縫物を手伝いに来た、夏月という女房がやって参りました。
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