第二章

3/25
前へ
/378ページ
次へ
呼び止める母親の声から逃れるため、少将は足早にお部屋を離れて、庭園に造られた池を臨む釣殿に向かいました。 (まったく。最近顔を合わせれば結婚、結婚と、口うるさくて敵わない) 眼下に外から水を引き込んだ遣り水が、涼やかな音を立てて流れています。 少将はそれを眺めながら、もう一度大きくため息をつくのでした。 この右近の少将道頼は、今や宮中で一番の出世頭で、都中の女性の憧れの的でございます。 威勢を誇る左大将家の子息にて、本人も見る者の心を奪うような花の顔(カンバセ)の持ち主。 また、人に好かれる明るい性格で、横笛の名手でもございました。 さらには、妹姫は帝の妃としてと寵愛を受けていたので、その兄である少将の未来は約束されたも同然です。 そんな美丈夫で将来有望な公達である少将は、独身の姫を持つ都中の貴族の、狙いの的でございました。 ですが肝心の少将は、いまだに身を固めるつもりはなく、結婚の二文字を聞くと、こうして大きなため息をつくばかりです。
/378ページ

最初のコメントを投稿しよう!

860人が本棚に入れています
本棚に追加