第六章

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見事に食いついてきた典薬助に、夏月は手を合わせて、わざとらしく感嘆して見せます。 「まあ、それは助かりますわっ。早速煎じて見せて下さいな。すぐにお湯など準備させますから」 夏月は内心、ひっかかったなとほくそ笑んでいるのですが、典薬助はそんなことは全く気づきません。 女の童が運んできた椀に、包みから出した乾燥した薬草を指でこすって粉々にし、そこにお湯を注いで煎じます。 それをにんまり顔で眺めてから、典薬助は椀に口を寄せて、ぐっと飲み干しました。 「むっ、うぐ。ほほほ、良薬は口に苦しじゃな」 その品の無い所作に夏月はあきれてしましますが、顔だけはにこにこと取り繕って、典薬助に申します。 「そのようにして頂けば良いのですね。ああ、良かった。とても参考になりました。 では早速、蔵人の少将様にも差し上げますわ」 夏月はひきつる笑顔を袖で隠して、阿漕の部屋にいそいそと戻ったのです。 「どうでした? 典薬の爺さん、『アレ』を飲んだのですか?」 「ええそれはもう、たっぷりと」 二人は顔を見合わせて、どちらともなく吹き出しました。これから典薬助の身に起こることを考えると、可笑しくて堪らないのです。
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