第六章

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(典薬の爺さんは、きっとそろそろ腹を下す頃だろうけど……。 念のために、物置の戸に何か差し込んで、開かないようにしておいた方がいいわね) 丁度、夏月の申した通り、北の方は明日の賀茂祭の行列見物の支度の為、忙しくしております。 阿漕はその隙を見て、物置の戸の隙間に、板の切れ端や紙を見つからないようにつめ込みました。 「姫様、阿漕にございます。 明日、姫様をお助けする絶好の機会がございます。ですから今夜一晩だけの辛抱ですわ。 典薬の爺さんには、ちょっと細工を致しましたので、今日ここに押し入るのは難しいと思うのですけど、念のため戸が開かないように、隙間に色んなものを詰め込みました。 姫様も戸の内側に、御櫃などを置いて下さいませ」 明日、落窪姫を助け出せるとしても、今夜間違いがあっては元も子もございません。 阿漕は念には念を、と。落窪姫に声を掛けます。 「まあ、それは本当なの?阿漕。 分かりました。今夜一晩、何とか耐えて見せますわ。 私も動かせるものを挟み込んでみます」 物置の中から聞こえてきた落窪姫の声の力強さに、阿漕もほっと頬を緩ませました。 その頃、北の方は明日の支度に追われて、今日は自分で錠を開けて物置に入りなさいと、典薬助に鍵を手渡していたのです。
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