第六章

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典薬助は尻を抑えて、膝をがくがく震わせております。 (うふふふふっ。いやだわ。さては爺さん、漏らしたわね?) 阿漕は噴き出しそうになるのを必死に堪えました。 典薬助は泣き出しそうな顔でしばらく放心し、結局尻を抑えたまま逃げるように去って行ったのです。 あの様子だと、下った腹はしばらく収まらないでしょう。 阿漕は急いで物置に駆け寄ると、落窪姫に声を掛けました。 「姫様、典薬の爺さんは、腹を下して自分の部屋に戻りましたわ。 今夜はもうやってこないでしょう。安心してお休みください。 私も、惟成が今日は忍んでくると言っておりましたので、明日のことなど相談して参ります」 「ええ、分かったわ。阿漕本当にありがとう。お前が居なければ、私すっかり挫けていたと思うの。 お前も今日は、ゆっくり休んでね?」 明日への希望と束の間の安らぎに、二人ともようやく安心して眠ることが出来そうです。 あとは明日、落窪姫を無事に救い出せれば、言うことが無いと、阿漕は惟成の待つ自分のお部屋に向かいました。
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