第六章

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阿漕は順を追って、ここ数日の事を惟成に話して聞かせます。 典薬助の事を話した時には、温和な惟成が、膝の上で拳を固く握り、眉根をきっと寄せているので、阿漕はその姿に少し見惚れてしまいました。 けれど、典薬助が阿漕と夏月のたくらみで、姫に夜這うどころか、腹を下して便を漏らしてしまった事を話すと。 それまで怒りに震えていた惟成も、思わず吹き出してしまいます。 「じゃあ今頃、袴を一生懸命洗ってるんだろうな」 惟成は想像してどんどん可笑しくなるのか、声を張って笑い始めました。 そんな風に笑い飛ばしてくれて、阿漕も胸がすくような思いが致します。 「けれど姫様は、まだ物置に閉じ込められているんだろう?」 惟成は大笑いしたせいで眦に滲んだ涙をこすりながら、真面目な顔をして阿漕に向き直りました。 「そうそう。それが一番大事なお話なのよ! 姫様はまだ物置の中だけど、明日絶好の機会があるのっ。 こちらの婿君の蔵人の少将が、明日の賀茂祭で舞人として立たれるから、北の方様はそれを見物に行かれるんですって! きっと威勢を見せつける為に、お邸の殆どの者を引き連れていくはずよ?」 阿漕が顔を明るくさせてそう言うと、惟成もそれは絶好の機会だと、力強く頷きました。
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