第六章

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其の参 「それじゃあ朝になったら若様にお話しして、隙を見て姫様を救い出してやるっ」 惟成の力強い言葉に阿漕もにっこりと笑って、その肩に頬を寄せました。 「期待してるわっ。惟成さん」 そうして若い夫婦が仲睦まじく過ごしている頃、典薬助は冷たい水で袴を洗いながら、押し寄せる便意に厠へ走るという、何ともみじめな夜を過ごしたのです。 夜が明けると、惟成は早速右近の少将の元へ向かい、阿漕から聞いた話を聞かせました。 「なんということだっ。これ以上怒りが増すことも無いと思っていたのに、そんなむごい仕打ちを私の姫にしてくれるとは……」 右近の少将は怒りに顔をゆがませますが、今日が絶好の機会とあっては、怒ってばかりもいられません。 「よし、惟成。祭りの見物なら、昼過ぎには邸がもぬけの殻になるだろう。 それまでに姫を迎える準備を済ませるぞ。 まず、父上のこの邸に姫を迎えるのは都合が悪い。 母上から譲り受けた二条の邸を、隅々まで綺麗に掃除させろ。あそこに姫を迎え入れる。 足りない道具があったら、私の名を使っていいから、すべてきっちり支度するんだぞ?」 ここ数日気落ちして、食事もままならない様子だった少将の、生気を取り戻した姿に、惟成も威勢よく立ち上がります。
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