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其の一
「われに露 あはれをかけばたちかへり ともにを消えよ憂きはなれなむ」
源中納言のお邸の、北の外れの隅っこの部屋で、哀しいお歌を口ずさむ姫がおりました。
その部屋は、他のお部屋よりも床が一段落ち窪んでいて、これといった調度品も見当たりません。
戸の隙間から漏れる月明かりをぼんやりと眺めるその姫は。
白い着古した袷に、同じく着古した絹の綿入れを羽織り、手には仕立て途中の衣装を握っております。
(三の君がご結婚されてから、縫物が増えてしまって大変だわ。これが私の宿命と思って、なんとか耐えて生きていこうとは思うけど……。
お母様。もし私を憐れんでくださるのなら、私を迎えに来てくださいませ)
詠んだ歌を再度心の中でつぶやくこの姫は、姫に与えられたみすぼらしい部屋を綽名して、落窪(オチクボ)姫と呼ばれていました。
疲れて、もう横になりたいのに、と。落窪姫はため息をもらしましたが、もし姫が縫物をサボりでもしたら、この邸の北の方が黙ってはいないでしょう。
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