第六章

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(姫、今すぐ迎えに行きますから、待っていて下さい) 右近の少将も、いよいよ姫と再会し、水入らずで暮らせることに、嬉しさが募ります。 その頃中納言邸では、祭り見物の支度の為に、邸中の者が支度に追われておりました。 阿漕はその様子を探りながら、自分も逃げ出すための準備を致します。 落窪姫のお部屋から救い出した、残り少ない形見の道具類と自分の持ち物を、すぐ運び出せるようにテキパキと纏めました。 全ての準備を済ませ、午の刻(お昼頃)に北の方の様子を見に行くと、牛車を三輌程準備し、ちょうど三の君と四の君がそれに乗り込もうとしております。 そのどさくさに紛れて、北の方は渡殿の端の方で、典薬助と向かい合っておりました。 まさか昨日の話をしているのでは、と。阿漕が目を凝らしてようく様子を窺うと、北の方は典薬助から物置の鍵を受け取っている所でした。 「私の居ない間に、お部屋の戸を開けられたら困りますからねえ。また夜になったら、この鍵は貴方に預けますよ。 では、祭り見物に出かけて参ります」 潜んだ阿漕の耳元に、不気味に機嫌の良い北の方の声が聞こえてきて、阿漕は顔をしかめます。 (まったく。悪い知恵だけは驚くほど回るお人なんだから。鍵の事など忘れて、とっとと出かければいいものを……)
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