第六章

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一方阿漕は、お邸の中から寝殿の周囲を確認しております。 祭り見物には行かずに残った女房達が、皆自分の部屋でくつろいでいるのを見届けて、阿漕は右近の少将の元に急ぎました。 「少将様、阿漕にございます。今確認いたしましたら、姫様のいらっしゃる物置の近くには誰もおりません。 急いで御車からお降り下さい」 阿漕の言葉に、右近の少将がさっと車から出て参ります。 その姿はやはり凛として美しく、この方こそ姫様の婿君だと、阿漕は涙が出るほど嬉しく思いました。 阿漕に案内された物置の様子を見ると、右近の少将の胸に押さていた怒りが込み上げて参ります。 (こんな所に……。あの美しいいたいけな人を、こんな所にっ) すぐに戸を開けようと駆け寄りますが、そこにはしっかりと錠が差してありました。 鍵は無いかと阿漕を振り返りますが、阿漕は残念そうに首を横に振るのです。 「惟成っ! 男を数人こちらに寄越せっ。戸を打ち破るぞ!」 右近の少将はそう言って、自ら戸に肩をぶつけました。 そこへ少将のお伴の男が数人やってきて、一斉に戸にぶち当たります。 流石に若い男数人の力には敵わず、戸を押さえていた打ち立ての部分が、みしみし音を立てて壊れました。
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