第六章

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戸が開くと、惟成はお伴の男を引き連れて、さっとその場を下がります。 主人の妻の姿を、明るい中で見届けるのは失礼だと言う遠慮もございましたが、それよりも、 (待ちに待った再会の時だ。お二人だけにして差し上げよう) という、主人想いの気遣いだったのです。 右近の少将が物置の中に駆けこむと、そこには少将の記憶よりもさらに美しい落窪姫が、薄縁にひっそりと座っておりました。 「姫っ! 迎えに来ました!」 落窪姫が嬉しくて立ち上がろうとした時にはすでに、右近の少将の腕の中に抱きとめられておりました。 ずっと物置に立ち込める嫌な臭いを嗅いでいた落窪姫の鼻を、少将の爽やかなお香の香りが優しくくすぐります。 「少将様っ……。お会いしとうございましたわ」 潤んだ瞳を少将の胸に当て、落窪姫は心の底からこの人を愛しいと思いました。 (この方の腕の中は、なんて心が安らぐのでしょう) そのように一心に身を預ける落窪姫が愛おしくて、右近の少将は姫をそのまま抱き上げます。 そして、匂い立つような笑顔を浮かべました。 「さあ、私たちの家に帰りましょう」
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