第六章

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主の居ない寝殿を睨みつけて、阿漕は牛車の元に戻ります。 その車の中では、既に落窪姫が右近の少将の膝に抱かれておりました。 (あらまあ。私ったら、とんだお邪魔虫じゃないの) 二人の仲睦まじい様子に阿漕は頬を赤らめて、御車の隅の方にひっそりと乗り込んだのです。 右近の少将の車は、屈強そうな男たちに守られながら中納言邸を後にし、二条のお邸に飛ぶように向かいました。 揺れる車の中でも、落窪姫は右近の少将に守られるように、その身を寄せております。 あまり見てはいけないと思いつつ、美男美女の二人が寄り添う姿に目を奪われ、阿漕は思わずため息をついたのでございます。 「さあ、着きましたよ。ここが私たちの愛の巣です」 二条のお邸は綺麗に掃除され、開け放たれた格子から、清々しい風を取り込んでおりました。 右近の少将はもう一度落窪姫を抱き上げて、心底幸せそうな笑みを浮かべます。 「阿漕も着いて来なさい」 そう言って右近の少将は、姫を腕に抱いたまま、最奥の寝殿に進んで行きました。 「まあ、美しいお部屋でございますねえ」
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