第六章

40/50
前へ
/378ページ
次へ
真剣な眼差しで、右近の少将は口を開きました。 「貴方は、私のただ一人の妻で、ただ一人の恋人です。 これからもずっとずっと、あなた以外の女人に心を奪われることは無いでしょう。 だから、中納言家の人々が、悔しくて眠れないくらい、うんと幸せになりましょうね?」 下から見上げる右近の少将の顔は、いつになく色っぽくて、落窪姫は胸が高鳴って仕方ありません。 けれど、しっかりと頷いて少将の言葉に答えます。 「私、もう既に、うんと幸せでございますよ? 少将様と一緒に居られるだけで、望みはすべて叶いましたもの」 愛する二人の視界からすっかり消えてしまった阿漕は、頬を真っ赤にさせながら、そっとお部屋を後に致しました。 階段を下りると白砂を敷き詰めた坪庭の向こうに、梅と藪椿が花を咲かせております。 それは艶やかな右近の少将と清らかな落窪姫の様で、阿漕はしばらく庭の向こうを見つめておりました。 「阿漕、そんなところで……って、お前何泣いてるんだよっ」 惟成に声を掛けられて、阿漕は自分の頬を濡らす涙に気付きます。 (やだ、私ったら。なんだか嬉しくてほっとして……)
/378ページ

最初のコメントを投稿しよう!

860人が本棚に入れています
本棚に追加