第六章

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まだ十にも満たない子供のころから、必死に生きてきた阿漕でございます。 北の方の冷たい仕打ち。頼りにならない源中納言。 誰も味方の居ないお邸の中で、落窪姫と慰め合いながら暮らしてきた日々の記憶が、阿漕の心を駆け巡りました。 「惟成さんっ……」 全ての事から解放され、阿漕は惟成の胸に飛び込みます。 張りつめていた心が一気に緩み、肩を震わせて咽び泣く阿漕を、惟成はしっかりと抱きとめて、その背を優しく擦りました。 「頑張ったなぁ、阿漕。お前は本当によく頑張ったよ。俺の自慢の奥方様だ。 これからはもう、心配することなんて何一つないさ。 このお邸で、うんと幸せになろうな?」 耳元で囁く惟成の声も、涙を含んで少しだけ震えております。 「惟成さん。私、貴方と結婚して、本当に良かった。 いつも憎まれ口ばかり叩いているけれど、私、惟成さんの事をとっても頼りにしてるのよ? 少将様の事だって、惟成さんが居たからこそ、御縁があったんですもの。 本当に、本当にありがとう」 気の強い阿漕のいつもの物言いも、惟成は結構気に入っているのです。
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