第六章

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けれど、優しい声音で可愛らしい事を囁かれ、惟成は頭が痺れるほど、阿漕を愛おしく思いました。 そして、先ほど少将が落窪姫にしたように、惟成は阿漕をひょいと抱き上げます。 「ひゃっ! 惟成さん?」 「今日は若様も姫様も、久しぶりの再会で仲睦まじくお過ごしだろうよ。 だから、俺たちも主人に倣って、仲良く過ごそうな?」 惟成は頬を紅く染めながら、すたすたと歩みを進めるのです。 (もう、惟成さんったら……) いつもの阿漕なら、お邸を見回って足りないものを揃えたり、落窪姫の側に控えたりと、御勤めを果たしたことでしょう。 けれど今日ばかりは、惟成のこの腕の方が、阿漕には魅力的でした。 「こんなこと許すの、今日だけですからね? 明日からは、姫様の為にめきめき働くんですからっ」 そう言って自分の首に手を回す阿漕は、いつになく柔らかい顔をしております。 (まったく、本当にいい女だなぁ。今日はうんと可愛がってやるからな、阿漕) こうして二組の若い夫婦は、それぞれに甘やかな時間を過ごしたのでございます。
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