第二章

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どこまでも賢い阿漕の掌で転がされる惟成は、自分を誠実だとほめそやすその台詞に気を良くして、任せておけと胸を叩いてしまったのでございます。 (まいったなぁ。 若様のこのご様子だと、きちんとしたご結婚という心づもりではないらしい) 惟成のそんな心中は知らず、少将はすぐに文をしたためて、 「この恋文を早速その姫君に渡しておくれ」 と言って、浅緑色の薄様(薄く綺麗な和紙)を渡してくるのです。 流石に突き返すことも出来ないので、惟成はそれをそっと懐にしまいました。 (阿漕になんと説明しようか) とてもじゃないけど、姫様のところへ若様を手引きしろなんて言えないし。 とりあえず、阿漕にちらりと話を臭わせて、様子を見るよりないな、と。惟成は人知れずため息をつきます。 (それにしばらくしたら、若様もお忘れになるかもしれないし……) 懐の恋文がやけに重たく感じられましたが、惟成はとりあえずなるようになるか、と。翌日阿漕の元へ向かったのでございます。
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