第二章

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一方、そんなお話のあることは知らない落窪姫は、今日もせっせと縫物に勤しんでおります。 この時代、夫の衣装を調えることが、妻の家の大切な仕事でございました。 そうして家全体で夫を大切にすることで、夫の足が遠のかないように努めていたのです。 特に三の君の婿・蔵人の少将は、このお邸でかしづかれて、元の性格よりさらに我が儘におなりだったので、北の方は落窪姫に、特に念入りに衣装を仕立てるよう、言い含めておりました。 ただでさえ衣装の準備が一人分増えて忙しいのに、念を入れるとなると、時間がいくらあっても足りません。 しかも、出来上がった衣装を婿君たちがいくら褒めても、仕立てている当の落窪姫の耳には、そのお言葉が伝わることはありませんでした。 それは北の方が 「うまく縫えてたなんて、落窪には言うんじゃないよ!そんなこと言ったら、あの子はいい気になるに決まってる。 落窪は縫物しかとりえのない、どうしようもない娘なんだから、小さな部屋でいじけて縫物を頑張っていれば、それでいいんだよ」 そんな風に周りの者に口止めして、落窪姫を喜ばせまいとしていたのです。
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