第二章

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もちろん、内心は可哀想だと思う家人もおりましたけど、この家では隅々まで北の方の目が光っておりましたので、そんな同情を口にできるはずもありません。 そんな風に扱われていても、落窪姫はくじけそうな心を一生懸命堪えて、文句ひとつ言わずに、毎日縫物と向き合っております。 (たまに上手に縫えた時には、北の方様に衣装のお下がりをもらえることがあるもの) 自分でもそんな考え方は卑屈だと思っていても、どうすることも出来ないのです。 小さなため息とともに、針を持ち直した落窪姫に、このお邸で唯一心を許せる、阿漕の声が聞こえてまいりました。 「姫様、姫様っ。大変でございます」 普段から明るく元気の良い阿漕ですが、貴族仕えの女房としての嗜みは心得ております。 ですから、阿漕がそのように声を上げて足音を立てていることを、落窪姫は不思議に思いました。 阿漕は姫の前に座ると、周りを見回して身をひそめ、今度は囁くような小声で落窪姫に話し始めます。 「実は姫様。姫様に求婚する殿方が現れたのでございます」
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