第二章

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男らしい美しい文字で、そう詠まれておりました。 「まあ、なんて見事なお手蹟(文字の書きぶり)でしょう。 恋焦がれているなんて、すてきなお歌ですわねぇ」 阿漕はため息をついて落窪姫を窺いますが、姫の顔は曇りがちです。 お返事を書くように進めても、首を横に振るだけで、一向に筆を取ろうと致しません。 そうこうしているところに、北の方の怒鳴り声が聞こえてまいりました。 「阿漕っ! あーこーぎーっ! まったくいったい何処で油を売ってるんだい? まさかまた落窪のところにいるんじゃないだろうねえ!」 その声に姫は身を縮ませて、阿漕は飛び跳ねるように立ち上がりました。 「姫様、どうかよーくお考えくださいまし。 この阿漕が、決して悪いようには致しませぬ。 ですからきっと、お返事を書いてくださいましね?」 ひそひそ声でそう申しますと、阿漕は足早にお部屋を離れました。
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