第二章

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源中納言は、北の方に頭の上がらない、頼りがいのない父親でございました。 それでも血の通った父親ですので、時折部屋を訪れてくれるだけで、落窪姫は満足でした。 歳を追うごとに、父が口にする慰めの言葉は、その場限りのものであると、賢い落窪姫は察していたのです。 ですから、北の方の目を盗んで、お顔を見せて下さるそのお心だけで……と。それ以上のことは、次第に望まなくなってしまいました。 そんな状況ですので、とても父親に結婚のことなど相談できるはずもありませんし、北の方に知られれば、お邸を追い出されかねません。 そう思うと、落窪姫は背中がぶるっと震えました。 (このお手紙も、北の方様に見つかるわけにはいかないわ) いっそのこと、ビリビリに破いて捨ててしまおうかと持ち上げた薄様から、ほのかに涼やかな香りが漂って参りました。 それは、貴族が衣装やお部屋に焚き染める、薫物(お香)の香りです。 ですが、こちらの北の方が漂わせているような、きつくて品の無い匂いではなく、動かすと空気に乗って香るような、自然な匂いです。
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