第二章

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落窪姫は、その香りに誘われるように、もう一度文を開きました。 姫には文のやり取りの経験はございませんでしたが、そこに書かれた文字の素晴らしさは分かります。 (本当に男らしい素敵なお手蹟ですこと。 それにとても心の和む、良い香りがするわ。 右近の少将様は、きっと素敵な殿方なんでしょうね) お落窪姫は、膝の上で浅緑の薄様を綺麗に畳みました。 そして殺風景な部屋にポツリポツリと置かれている、漆と金で彩られた蒔絵(マキエ)の道具箱を引き寄せます。 それは、落窪姫の亡き母君が残してくれた、由緒正しいお品です。 昔は数々あったお品も、ことあるごとに北の方に取り上げられ、今では鏡や櫛をしまう数個しか、姫の手元には残っておりませんでした。 (ここなら見つからないかしら) 姫はその中から、櫛を入れる平たい道具箱を選んで、綺麗に折りたたんだ文をそっと仕舞ったのでございます。
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