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「姫様、もうお休みでございますか?」
そんな姫のもとに、いかにも優しげに声をかける女があります。
この女は、中納言家の女房で、名を阿漕(アコギ)と申します。
阿漕の母は落窪姫の乳母で、二人は乳兄弟にございます。
落窪姫の母と乳母が相次いで亡くなった後も、阿漕は姫に仕えてくれる、唯一の味方なのでした。
「阿漕なの?」
落窪姫の声に板戸を開いた阿漕は、姫の手に握られた縫物に目をおとし、大きくため息をつきました。
「北の方様は、また姫様に縫物を押し付けたんですか。
いくら継母といえど、このような部屋にそのような仕打ち。
阿漕は本当に腹が立って仕方ありません」
利発そうな顔をしかめて、阿漕は申します。
「仕方がないわ。縫物をしないと、追い出されてしまうもの。
それに、私、縫物は得意だし」
肩を竦めて答える落窪姫に、阿漕はあきらめたように微笑み返しました。
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