第一章

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「姫様、もうお休みでございますか?」 そんな姫のもとに、いかにも優しげに声をかける女があります。 この女は、中納言家の女房で、名を阿漕(アコギ)と申します。 阿漕の母は落窪姫の乳母で、二人は乳兄弟にございます。 落窪姫の母と乳母が相次いで亡くなった後も、阿漕は姫に仕えてくれる、唯一の味方なのでした。 「阿漕なの?」 落窪姫の声に板戸を開いた阿漕は、姫の手に握られた縫物に目をおとし、大きくため息をつきました。 「北の方様は、また姫様に縫物を押し付けたんですか。 いくら継母といえど、このような部屋にそのような仕打ち。 阿漕は本当に腹が立って仕方ありません」 利発そうな顔をしかめて、阿漕は申します。 「仕方がないわ。縫物をしないと、追い出されてしまうもの。 それに、私、縫物は得意だし」 肩を竦めて答える落窪姫に、阿漕はあきらめたように微笑み返しました。
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