第三章

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阿漕はくやしそうな顔を装って、はあーっと大きく息を吐きました。 月経の間は、女の身は穢れたものとして、参拝は慎まなければなりません。 阿漕はそれを利用して、お邸に居残るための嘘をついたのです。 ですが、そんな嘘にやすやすとだまされる北の方ではございません。 北の方は片眉を吊り上げ、薄い唇をいやらしくゆがませて阿漕の顔を覗きこみました。 「下手な嘘をつくんじゃないよ。 どうせお前のことだ。あの落窪が行けないなら、自分も忠義立てして、ここに残ろうって魂胆だろう?」 北の方は、なるべく落窪姫にみじめな思いをさせたいと思っておりました。 それに、阿漕のように見目良い女房をお伴の中に連れ歩くのは、貴族として鼻が高いので、ぜひ阿漕をお伴の列に入れたかったのです。 阿漕は気丈な娘でしたので、北の方の言葉にも顔色一つ変えません。 「もし、北の方様が月のさわりでもいいと仰るのなら、喜んでお伴いたしますわ。 石山詣でなんて、そんな楽しくてめったに機会のないものを、私がそんな理由で逃すはずございませんでしょう?」
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