第三章

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ですがお返事には 『何をうぬぼれているのかしら。 私は具合の悪い姫様のそばに居るために、残ったのよ? でも、そうね。 退屈だから、なぐさめに来てくれてもいいわよ。 そういえば、前に話してくれた女御様の絵を持ってきてくださる?』 そう書いて、使いの童に渡しました。 流石に、お邸総出の参拝にさえ、落窪姫は取り残されてしまうことを、阿漕は素直に言うことができません。 ですから、具合の悪い姫をなぐさめる為、絵を持って来てほしいと、惟成に返事を書いたのでございます。 以前に惟成が、もし落窪姫と右近の少将がご結婚すれば、綺麗な絵巻物を見る機会もあるだろうと、話してくれたことがございました。 少将の妹姫は帝の妃で、絵巻物が大変お好きな方だったので、たくさんの絵をお持ちだったのです。 娯楽の少ない時代でしたので、絵を眺めることは大切な楽しみで、阿漕はこの機会にぜひ、落窪姫を喜ばせて差し上げたいと思っておりました。
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