第三章

7/58
前へ
/378ページ
次へ
いっぽう、そんな返事を受け取った惟成は、首を捻ります。 わざわざ落窪姫が居残っていることや、少将の絵を持ってくるように、などと。やけに意味深だと、惟成は思いました。 (これは、若様に忍んで来て欲しいという、標なんだろうか? でも阿漕がそんなことを言うとも思えないけど) とりあえず右近の少将にお伺いを立てようと、惟成は阿漕の文を少将に見せました。 「へえ、これがお前の妻の手蹟か。なかなか美しい文字を書くんだね。 それに――これはいい機会じゃないか。丁度いい。 惟成、すぐに妻のところへ行って、私が忍び込めるよう手配しろ」 「それでは、何か絵巻物を一巻お貸しください。 それで妻の様子を見て参ります」 「絵巻物、か。それなら私の文を姫に届けておくれ」 少将はそう言って、白い紙に小指を咥えてすねた表情の男の絵を、さらさらと描きました。 そして 『つれなきを憂しと思へる人はよに 笑みせじとこそ思ひ顔なれ』 と、書き添えます。
/378ページ

最初のコメントを投稿しよう!

860人が本棚に入れています
本棚に追加