第三章

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それは、落窪姫の心を解くように機転を利かせた、右近の少将のしゃれっ気でございました。 『絵をご所望のようですので、これを差し上げます。 つれない仕打ちをつらいと思っている私は、この絵のように、笑みは見せない。つまり、絵は見せないと、いじけてすねているのですよ。 子供っぽい真似だと、お笑いになりますか』 そのように書かれた文を、今回はうまくことが運びそうだと、惟成は懐に忍ばせて阿漕の元に急ぎます。 ですが、どうやら絵巻物らしきものを持たない惟成に、阿漕はつれなく申しました。 「あら、惟成さん。 お約束の絵巻物はどこなの?」 「絵よりも若様のこの文を姫様にお渡ししておくれよ。 今日はもしかするとと思って、綺麗なお菓子もたくさん持ってきたんだぞ。 どうかな、姫様は。今日こそ、そろそろ若様と……」 約束の絵を持たない惟成に、阿漕はつんとした態度で返します。 「何を言ってるの? とりあえず、このお文を姫様にお見せしてくるわ。 惟成さんは、私の部屋で待っていてね」
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