第三章

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落窪姫は、阿漕に悪気が無いことも、自分を大切に思ってくれていることも、良く分かっておりましたので。 「ううん。変なこと言って、私こそごめんなさいね? もうこちらはいいから、はやくお前の夫の所に戻ってあげて。 きっと首を長くして待っているわ」 落窪姫は、優しく微笑んで阿漕に言いました。 「姫様、ありがとうございます。 では遠慮なくそうさせて頂きますわ。 何かあったら、お呼びくださいね?」 阿漕は惟成もとに戻りながら、落窪姫の優しさに胸を熱くします。 それと同時に、気になることがございました。 (姫様は、少将様からのご評判を、ひどく気にしておられたみたいだけど……) やはり何度も心のこもったお文を頂いていたので、頑なな姫の心も少しは動いたのだろうか、と。阿漕は思います。 (それにしても、絵巻物が見られないのは残念だったわ) そんなちゃっかりしたことを思いながら、阿漕は自室へ帰りました。
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