第三章

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阿漕の局では、すでに惟成がくつろいでおります。 と言うのも。 阿漕がいない間に、惟成はそれとなく、邸に残った家人や落窪姫の部屋の場所などを、確認しておりました。 もし文を見た姫の様子が、少しでも色よいものだったら、すぐに少将に連絡しようと思っていたのです。 ですが、いつのまにか雨が降り出し、少将から催促の文もありません。 (今日はこんな雨だから、きっと若様もあきらめたんだろうな) 惟成はそう結論付けて、阿漕の部屋に戻り、自分は妻と仲良くやろうと思っておりました。 この二人にとっても、いつもは騒がしいお邸で、ゆっくりしみじみと過ごせる、またとない機会でございます。 ですから、ほんの少しの間、お互いの主人のことは忘れて水入らずで過ごそうと、惟成は持ってきた菓子を広げました。 そうして二人がひとかたの夫婦らしく、仲睦まじく過ごしているところへ、雨音に紛れて琴の音が聞こえてきます。
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