第三章

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その音色が、阿漕と惟成に艶やかな雰囲気を与えております。 そろそろ夜も遅くなってきたし、と。惟成が阿漕の肩に手を添えた時。 板戸をほとほとと叩く音がして、聞きなれた声がしました。 「すみません、惟成さん。ちょっとお伝えしたいことがあるんですけど……」 (やや!これは、若様の声じゃないか!) 使いの者を装ってはおりますが、それは紛れもなく右近の少将の声だったのです。 惟成は阿漕からぱっと手を離し、そそくさと部屋を出て行きました。 「若様、おいでになるのなら、まずは文なり伝言なりで、お知らせくださいよ。 私はてっきりこの雨で、今日はいらっしゃらないものと……」 阿漕に見つからぬようお部屋を離れて、惟成は少将に向き直ります。 「お前からの連絡を待っていたんだよ。いったいどんな状況なんだ? 惟成。 こんな雨の中やって来たんだから、今更手引きはできません、なんて、通用しないぞ?」
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