第三章

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もともと惟成は、今日こそ少将を手引きする心づもりでいたのですが、雨に気を逸らせ、いざこうして事を起こそうとすると、やはり気持ちが揺らいでしまうのです。 「お文はお渡ししましたが、姫様の心もまだ伺っていないもので……」 少将は、そんな風に言葉を濁す惟成のことなど、気にするそぶりも見せず、 「まあ、そんな難しい顔をするなって。とりあえず姫を隙見(覗き見)させなさい」 そういってにこやかに笑っております。 「そんなことを仰って、もし姫様が昔物語に出てくるような、醜い姿ならどうされるのですか」 「そうなったら、袖を傘にしてとっとと逃げ帰るさ」 邸内はろくに人もいないので、すっかり気楽な様子の少将は、惟成の肩にポンと手を乗せて、はやくしろよとせがみました。 (流石にここまで来られた若様を、から手で返すわけには、いかないよなぁ……) 惟成もついに根負けして、阿漕からそれとなく聞き出していた落窪姫の部屋まで、少将を案内したのでございます。
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