第三章

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その頃、一人になった阿漕は、惟成が持参してくれた菓子持って、落窪姫の部屋に戻っておりました。 普段なら、姫の口に入ることなどめったにない、めずらかな菓子でしたので、夫のいない間に二人で楽しもうと思ったのです。 そのお部屋の格子(組木の窓)と簀子縁(スノコエン・縁側)の間に、惟成が右近の少将を招き入れているとも知らず、二人は仲良くおしゃべりをしています。 少将はそっと格子をあげて、お部屋の中を覗きます。 室内を照らすのは、今にも消えそうな儚い灯でしたが、几帳や屏風といった貴人を隔てる家具が無いので、二人の姿がよく見えます。 こちらに向かって座っているのが惟成の妻だろうと、少将はその姿を見止めました。 白い単衣(裾の長い着物)の上に艶のある紅色の衵(アコメ・重ね着用の着物)を重ねて、明るい顔で話に耽っております。 (なかなか、美しい娘じゃないか。さて、お目当ての姫は……) 少将が隣に視線を移すと、肘をついて少し身を横たえた女の姿がございました。 女房の阿漕よりもずっと粗末な、着古した感じの白い単衣を来て、紅色の絹の綿入れを腰に掛けております。
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