第三章

16/58
前へ
/378ページ
次へ
そのお顔は、横を向いているせいではっきりとは見えませんが、少将はその姿に目を奪われました。 整った形の良い頭から、流れるように豊かで艶やかな黒髪が、肩にこぼれ落ちております。 うつむき加減のしとやかな仕草も、うつくしい女人を想像させるのに十分で、右近の少将は思わず息をつきました。 もっとよく姫の姿を見たいと少将が身を乗り出したとき、儚かった灯がふっと消え、落窪姫への想いを、いっそう掻き立てたのでございます。 「あら、暗くなってしまったわね。 もう今日は遅いから、阿漕は夫の所に戻ったら?」 ふいに落窪姫の声が聞こえてきました。 その声は、棘のない、可憐で優しい女性らしい声で、家人への優しい心遣いにも、少将は胸を熱くします。 「大丈夫でございますよ。 先ほど夫は客に会いに行きましたので、私は姫様のお側におりますわ。今日はお邸ががらんとしているので、姫様もお寂しいでしょう?」 「気にしないで。私、寂しいのにはもう慣れているもの」 二人のお互いを思いあう優しいやり取りを聞きながら、少将は格子から身を引きました。
/378ページ

最初のコメントを投稿しよう!

860人が本棚に入れています
本棚に追加