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「この綿入れは、蔵人の少将の為に表袴を縫って差し上げた時、北の方様が上手に縫えた褒美だと言って、くださったの。
着古したものだけど暖かいし、私は誰の前に姿を見せるわけでもないから……」
蔵人の少将は、落窪姫の異母姉妹である三の君の婿君で、北の方はこの出世頭である婿君をたいへん大切にしておりました。
貴族の姫でも、縫物が教養の一つであったこの時代。
ですがやはり、そのような手仕事は、せずに済めば、それに越したことはございません。
中納言家の姫たちは、落窪姫と四の君を除いて、すでに結婚をしておりましたが、その婿君たちの衣装のほとんどを、落窪姫が仕立てておりました。
落窪姫は美しいだけではなく、大変器用でもございましたので、それは立派な衣装を調えるのです。
北の方は、まるでただで針子を雇ったように落窪姫を働かせ、出来た衣装はさも自分たちが調えたように、婿君たちに渡しておりました。
「阿漕、こちらにあまり長居しては、北の方様や三の君に、叱られないかしら?
それとも、皆様はもう、お休みなの?」
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