第三章

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其の弐 「なべて世の うくなる時は身かくさん いはほの中の住みかもとめて」 簀子縁に身を縮める右近の少将の耳に、先ほどの可愛らしい声で詠まれた歌が、聞こえてきました。 (この世が辛くて、人目のない巌に身を隠して暮らしたい、なんて。 悲しい歌をお詠みになるものだ……) 先ほどから聞こえてくる琴の音も、優しいけれどどこか寂しげで。 少将ははやく姫に会って、腕の中でなぐさめてあげたいと、強く思いました。 本当は姫が寝入るのを待つつもりだったのですが、少将は逸る心を抑えられず、格子をこじ開けて部屋に押し入ってしまったのです。 その不審な音は、阿漕の眠りを覚ましました。 (姫様のお部屋の方からだわ……) 素早く立ち上がろうとしていた阿漕を、寝たふりをしていた惟成が制します。 「惟成さん、離してっ。 姫様のお部屋の方で、格子がガタガタいってるわ。 急いで行かないと」 ですが、惟成は阿漕の腰をしっかりと持ち、褥に戻そうとします。
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