第三章

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「きっと犬やネズミさ。 いちいち見に行くことはないよ」 「そんな音じゃ無かったわ。 あれはまるで、人の手でこじ開け……っ!! まさか、貴方っ!」 阿漕は自分から血の気が失せていくのを感じました。 「嗚呼っ。何てことしてくれたの? なんの前触れもなくこんなことをするなんて!」 「いったい何の話だよ。俺が何をしたって言うのさ」 詰め寄る阿漕に、とぼける惟成。 そんな二人に、落窪姫のかすかな泣き声が聞こえてきます。 阿漕は力を振り絞って惟成の腕を逃れようとしますが、男の力に敵うわけもございません。 何度も何度もとぼけて返す惟成でしたが、次第に阿漕の目が赤くうるみ、涙をぽろぽろとこぼし始めました。 気丈な妻の涙に、惟成も流石にほだされて 「若様は、本当に姫様に心惹かれているんだ。 だから、せめてお話だけでも、というお心で来られたんだよ。 これはお二人の宿命(スクセ)なんだよ。きっといいように転ぶさ」 そう言って、阿漕の背中をなだめるように撫でたのでございます。
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