第三章

21/58
前へ
/378ページ
次へ
一方、落窪姫はあまりに突然のことで、起き上がることも出来ずに身を縮めました。 右近の少将は、その腕を優しく絡め取り、姫を自分の胸に抱き寄せます。 そして、すばやく自分の衣装をといて、それを敷物に姫と体を横たえてしまいました。 落窪姫はおそろしさの余り、か細い肩をぶるぶると震わせて、涙もあふれんばかりにこみ上げてきます。 少将はそんな姫の仕草も愛おしくて、なんとか気持ちを静めてもらおうと、優しい声で耳打ちしました。 「そんなに怖がらないでください。 先ほど貴方の歌が聞こえて参りました。この世を悲しむ貴方が可哀想で愛おしくて。 もし貴方が望むなら、人に見つからない巌を、私が探し出して差し上げますから、もうどうか、そのように悲しまないでください」 落窪姫はその優しい声を聞いて、これはいつも文を下さっていた右近の少将様ではないかしら、と思い当ります。 ふと肌に触れる絹を見るととても上等そうで、少将からはいつかの折に嗅いだ、あの涼やかな香りが漂っていました。 それに引き換え自分の身なりは何ともみすぼらしく、落窪姫は恥ずかしくて情けなくて声を震わせました。
/378ページ

最初のコメントを投稿しよう!

860人が本棚に入れています
本棚に追加