第三章

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けれど落窪姫は、未だに涙で瞳を濡らし、か細い肩を震わせています。 「どうして私を、そんなに嫌うのでしょう。確かに私はそんなに大した男ではないかもしれない。 でも私は、たった今本当に貴方に恋をしました。 この月明かりは、貴方と私を結びつけるための、思し召しでしょう。 さあ、もう泣かないで」 優しい少将の言葉にも、落窪姫は自分の身なりに気を取られ、うるんだ瞳を伏せました。 よほど気になるのか、古びて擦り切れた衣のせいで、透ける肌を隠すように、落窪姫は両手で自分を抱きしめています。 (私にとっては、姫の身なりなど、些細なことであるのに……) 心を開いてくれない落窪姫に、少将は焦れた気持ちになりましたが、そのまま無理に姫の衣を解こうとはいたしませんでした。 (ここまで来て契りもせずに帰るなど、遊び上手の名折れだな) 心の中でそのように自分を笑いながら、月明かりから姫を隠すように、少将は落窪姫を抱きしめます。 そしてそのまま、時折姫の耳元で睦言を囁きながら、一夜を明かしたのでございました。
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