第三章

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落窪姫にとっては長かった夜が、ようやく明けようとしています。 この時代、結婚の一夜目はまだ正式なものではないので、少将は空が明るくなる前に帰らねばなりません。 夜明けを告げる鳥の鳴き声を聞いて、少将は姫に歌を詠みました。 「君がかく 鳴きあかすだに悲しきに いとうらめしき鳥の声かな」 ※貴方が一晩中泣き明かしたことだけでもこんなに悲しいのに、朝の別れを告げる鳥の声まで聞こえてくるとは、恨めしいことです。 そして自分の衣を一枚脱いで、そっと姫を包み込みます。それは『後朝(キヌギヌ)』という、お互いの衣を交換する、恋人同士の習わしでした。 もちろん、落窪姫はそんな習わしのことは知らず、もし知っていたとしても、単衣一枚しか身に着けていない姫には、返す衣はございません。 ですが、右近の少将にとっては、そんな習わしなど、もうどうでも良いのです。 恥ずかしそうな姫の心を少しでも和らげたい気持ちが、少将にそういった振る舞いをさせたのでした。 「お返事だけは、時々でいいので下さいね。 こんな仲になったのですから、貴方のお声を全く聞けないというのも、寂しいんですよ?」
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