第三章

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右近の少将のその言葉に、伏せていた落窪姫はその身をゆっくりと起こし、儚い声で答えます。 「人心 うきには鳥にたぐへつつ なくよりほかの声はきかせじ」 ※このような辛い目にあわせた貴方に、私は鳥のように鳴く声以外、お聞かせできそうにありません。 つれない返しに聞こえるその歌に、少将はますます愛しさを募らせます。 今まで戯れの女性たちから返ってきた言葉や歌は、恋の形を整えるだけの、通り一遍のものでした。 ですが落窪姫は、こうして誠心誠意、本心を語る歌を口にしたのです。 ありがちな恋の言葉でも、気を引くための恨み言でもないその歌は、飾り気のない健気な姫そのもので。 昨夜ここを訪れた時にはまだ、戯れの心が多かった少将からは、邪な想いなどとうに消え去ってしまいました。 (これはもしかして、本物の恋というものなのかもしれない……) 少将は勝ち目のない勝負に挑んでいるような気がして、そっと袖の奥で苦笑いをしたのでございます。
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