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一方のお部屋では、一晩中泣いたり恨み言を言ったりする阿漕を、惟成が一生懸命なだめておりました。
「参ったなぁ。
いったい何時になったら機嫌を直してくれるんだよ」
「もう貴方なんか大嫌いよ。
姫様がどんなに心細い夜をお過ごしになったかと思うと……。
いままで私のことを、たった一人の味方だと信じて下さっていたのに。
きっと私も貴方たちとグルだと思われたに違いないわ。もう、姫様に合わせる顔もなけりゃ、惟成さんのお顔だって、もう見たくもない気持ちよ」
阿漕は惟成に背を向けて、袖で自分の顔を隠してしまいます。
「そんなこと言ってないでさ。
ほら、もうすぐ夜が明けるよ?
姫様の御前に伺って、若様に迎えの車が来たと伝えておくれよ」
牛車の音を聞きつけた惟成は阿漕にそう頼むのですが、阿漕はいやいやと首を振りました。
「そんなことをしたら、私が昨夜のことをはなから承知していたと、姫様に言うようなものじゃない。
惟成さんは、私が姫様に嫌われてもいいの?」
しっかり者の阿漕にしては、子供っぽい言いようです。
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