第三章

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ですが惟成はそんな阿漕も可愛らしく思い、 「もし姫様に嫌われたら、俺が代わりにうんと可愛がってやるよ」 そう言い残して、自分で右近の少将を呼びに行くことにいたしました。 落窪姫のお部屋の前で、流石に声をかけるのは憚られるので、コホンと咳払いをいたします。 すると、姫に一言二言声をかける少将の声が聞こえた後、引き戸が開きました。 (おや、これはもしかすると……) 惟成は出てきた少将の顔を見て、片眉をピクリとあげました。 扇で口元を隠してはおりますが、今までと趣が違います。 恋のお遊びのあと、少将はどちらかと言うと、晴れやかな顔をしておりましたけど、今日はどこか憂いを帯びています。 その物思いの様子が、もともと美丈夫な少将の顔に、何とも言えない色を与えていて、男の惟成も思わず見とれてしまいました。 (阿漕は文句ばっかり言っていたけど、これはなかなかどうして。 いい方向に転がりそうじゃないか) 一晩中、眠りもせずに責められっぱなしだった惟成には、この少将のお顔が、救いに思えたのでございます。
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