第三章

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右近の少将からの後朝の文は、それこそ矢のような速さで届いたのです。 先ほどこちらのお邸を出たばかりなのに、帰りの牛車の中で書いたのかと思うほどでした。 添えられた惟成の文にも、 『まだお前は俺を許していないんだろうし、そちらの姫様もたいそうこちらを恨んでおいでかもしれないけど。 どうやら若様は本気で姫様に恋をしたらしいよ。 それならお前も文句はないだろう? だから若様の文を早く姫様にお見せして、必ず返事を頂いておくれよ。いいね?』 このように書きつけてあります。 確かにこうして早々と文が届くのは、少将の誠意の証しでございます。けれど、 (全く、いい気なものよ。 そちらばっかりどんなに本気になろうとも、肝心の姫様が少将様をお好きになれないようじゃ、ちっとも幸せじゃないじゃない。 どうして殿方と言うのは、もっと時間をかけて心を込めて、女を口説いてくれないのかしら) 阿漕は鼻から大きく息を吐き出しました。
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