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そうは思っても、お文を落窪姫に見せないわけには参りません。
阿漕は重い腰を上げて、落窪姫のお部屋に向かいました。
今度はお部屋の前で声をかけます。けれど、落窪姫からの返事はありません。
(やっぱり私の顔なんか、見たくもないとお思いなのかしら)
阿漕は泣きたいのを堪えて、背筋を伸ばしてお部屋の引き戸を開けました。
「あの、姫様。右近の少将様からお文が来ております」
気丈な様子を振る舞って阿漕は申しましたが、落窪姫は臥せったままで、お顔さえ見せてくれません。
「姫様は、私をお疑いですか?
私、本当に何も知らなかったんです。こんなことを申し上げても、信じて頂けないかもしれませんが、本当に寝ている間に起こってしまった事なんです」
阿漕が少し膝を進めて熱心に言う言葉にも、落窪姫の返事はございません。
「もし知っていたなら、私きっと姫様にお知らせするなり、お守りするなり、致しましたわ」
そうして詰め寄っても返事がもらえないので、阿漕の心は挫けそうになりました。
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