第三章

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哀しい微笑を称えながら、落窪姫は遠くを見るように顔をあげます。 阿漕は落窪姫の言葉に、少し明るい兆しを見つけました。 (良かった。姫様は右近の少将様をお嫌いになったわけではなさそう。 それより、絵巻物の時もそうだったけど、やっぱり少将様からのご評判を、気にしておられるみたい) 阿漕は眦の涙を袖で強引に拭ってから、落窪姫に笑顔を見せます。 「姫様。右近の少将様は、姫様の境遇は承知の上でいらっしゃってますわ。 ですから思い切って、少将様のお心を信じて差し上げたらいかかでしょう?」 「でもね、阿漕。 私には、こんな身なりの女を見て、心が動かされる殿方がいるなんて、とても信じられないわ。 だってこのお邸の姫君は皆、綺麗に着飾っておいでだもの。少将様も、数多の美しい姫君をご覧のはずよ。 それに、北の方様に知られたらと思うと、恐ろしくて堪らないわ。 きっとひどい仕打ちを受けそうで……」 哀しく微笑む落窪姫のお顔は、綺麗に化粧を施したどんな姫君のお顔よりも美しいのに、と。阿漕は思いました。
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