第三章

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それを受け取った惟成は、姫がひどく臥せっていて、返事は貰えなかったことを、右近の少将に伝えました。 (きっとまだ、あんな身なりを私に見られたことを、気にしておいでなんだろう) すっかり落窪姫に骨抜きの少将は、お返事が無いにも関わらず、姫を気遣う心を見せます。 そうしてお昼ごろにもう一度、落窪姫にお文を送りました。 やはり落窪姫は返事を致しませんでしたが、そこには、未だにつれない姫に、それでも愛おしさが募ると書かれていたのです。 阿漕はまた、惟成への恨みつらみを返事に書きながら、ふと思いました。 ちらりと見た少将からの後朝の歌は、遊び上手らしからぬ、誠実なお歌でした。 (少将様くらいの慣れた方なら、もっと女心をくすぐるような、上手なお歌を寄越しそうだけど。 あれはそうねえ。少将様のお心をそのまま詠ったような、素直なひねりの無いお歌だったわ。 それに、こちらからお返事も差し上げていないのに、恨んだ様子の全くない、お心のこもったお文を再度下さったし……) 阿漕は、心の中でよしっ!と気合を入れて、立ち上がりました。
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