第三章

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(こうなったら、今夜は姫様が右近の少将様に気兼ねなく過ごせるよう、完璧に準備を整えてみせるわ!) 阿漕が思うに、右近の少将は落窪姫にかなり夢中のようです。 それに、綺麗なお衣裳を着てお部屋をすっかり整えれば、姫だって心を開いて少将を迎えるかもしれない、と思いました。 落窪姫は突然のことで嘆いておりましたが、こうなってしまっては、少将との結婚をうまく運ぶことが、今できる最善の策なのです。 阿漕自身、まだ驚きと怒りがお腹の中をくすぶっておりましたが、そんなことを気にしている余裕などありませんでした。 まず、落窪姫のお部屋を、綺麗に掃き清めねばなりません。 それから、殺風景な部屋を出来るだけ華やかに飾る必要もあります。 幸い、落窪姫の手には、亡き母君の残してくれた、美しい道具類が、少しだけ残っておりました。 中でも鏡は、凝った細工の素晴らしい品物です。 それを、蒔絵の道具箱の中で一番上等な物の上に、鏡面をよーく磨いて飾りました。 すると、殺風景だったお部屋が、ぱっと明るくなったのです。
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