860人が本棚に入れています
本棚に追加
(これだけでも姫様もお手元に残っていて、本当に良かったわ)
それでもお部屋を見渡すと、やはり貴族の姫君のお部屋には当然あるはずの、屏風や几帳と言った家具が一つも無いので。
(これでは夜具も明け透けになってしまうから、姫様も少将様も落ち着かないわよね。
せめて几帳だけでも準備できないかしら。
それに、夜具ももう少し上等の、寝心地の良いものがあったらいいんだけど)
阿漕は頭を捻りました。
そうしてしばらく思い悩んだ後、ポンと手を打って自分の部屋に袴を滑らせます。
阿漕は急いで筆を取ると、美しい字でさらさらとお文を書き始めました。
『叔母様、ご無沙汰しております。
実は、お願い事があるのです。
今日、私の所へご身分の高いお客様があるのですけれど、几帳や夜具が不足していて、困り果てています。
こんな時だけ手紙を寄越すことを、お怒りかもしれませんが、叔母様しか頼る方がいないのです。
どうか、お許しくださいまし』
そのお文を、使いの童に急いで届けさせました。
最初のコメントを投稿しよう!