第三章

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(これだけでも姫様もお手元に残っていて、本当に良かったわ) それでもお部屋を見渡すと、やはり貴族の姫君のお部屋には当然あるはずの、屏風や几帳と言った家具が一つも無いので。 (これでは夜具も明け透けになってしまうから、姫様も少将様も落ち着かないわよね。 せめて几帳だけでも準備できないかしら。 それに、夜具ももう少し上等の、寝心地の良いものがあったらいいんだけど) 阿漕は頭を捻りました。 そうしてしばらく思い悩んだ後、ポンと手を打って自分の部屋に袴を滑らせます。 阿漕は急いで筆を取ると、美しい字でさらさらとお文を書き始めました。 『叔母様、ご無沙汰しております。 実は、お願い事があるのです。 今日、私の所へご身分の高いお客様があるのですけれど、几帳や夜具が不足していて、困り果てています。 こんな時だけ手紙を寄越すことを、お怒りかもしれませんが、叔母様しか頼る方がいないのです。 どうか、お許しくださいまし』 そのお文を、使いの童に急いで届けさせました。
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