第三章

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阿漕がお文を送った先は、受領(ズリョウ)をしている男の妻になった、叔母の所でございます。 この叔母は、可愛らしくて賢い阿漕を、とても大事に思っていたので。 阿漕の母亡き後、養女にしたいと申し出ているのでした。 けれど阿漕は、落窪姫と一緒に居たいので、それを何度も断っているのです。 そんな訳で、叔母の力を借りるのは、内心とても心苦しいのですが、阿漕は他に頼るべき人を持ちません。 さらに、この叔母の夫の任国は、和泉という豊かな国で、叔母の家は大変羽振りが良かったのです。 この時代は、任国に恵まれた受領の方が、都の貴族より裕福な場合も、多くございました。 きっとお持ちの家具や調度品は、素晴らしいお品でしょう。 (叔母様、本当に不躾でごめんなさい) 阿漕は心の中で謝りながら、手を合わせました。 (おっと。こうしちゃいられないわ。 頼んだものが届く前に、姫様のご準備も済ませてしまわないと) 今度は、姫に着せるお衣裳や薫きしめるお香を持って、落窪姫のお部屋に戻りました。
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